改憲vs護憲を超えて

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慰安婦についての杉山外務審議官発言について

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さて、先の合意での約束は、「日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」「韓国政府は、今般日本政府が表明した措置が着実に実施されるとの前提で、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに批判することは控える」とある。

つまり、合意で禁止されているのは、

・日本政府が慰安婦問題を題材にして韓国政府を非難・批判すること

・韓国政府が慰安婦問題を題材にして日本政府を非難・批判すること(ただし、日本政府が合意を遵守している時に限る)

ということである。

 

韓国政府は、これに対して、日本政府が合意に反していると判断すれば批判可能であり、そうでなければ批判不可能である。

 

今回の杉山発言は、上記の産経の記事で読む限りにおいては、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」には違反していない。なぜなら、朝日への批判をしているのであって、韓国政府への批判をしているわけではないからである。

では、韓国政府はこの杉山発言に対して批判不可能なのだろうか。

強いて言えば、「今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」という部分があり、この発言が「全ての元慰安の方々の心の傷を癒やす措置」に逆行するものであるという判断で、杉山発言を批判することは不可能ではないかもしれない。

ただし、解釈が分かれるところであろう。そういう解釈のもとで韓国政府が杉山発言を批判したら、日本からは、別の解釈により、合意を韓国政府が踏みにじった、という批判をすることも可能になるであろう。

 

これが、この「合意」での韓国政府の苦しいところである。

もっとも、韓国政府も、日本政府を非難・批判するために慰安婦問題を取り上げるのでなければ、慰安婦について発言することができる。つまり、杉山発言が韓国政府を直接批判しているのではないのと同様の手法をとる、ということである。

「合意」で禁止されているのは、慰安婦問題について日韓両政府が互いに非難・批判することであって、日本政府あるいは韓国政府が国際社会の中で慰安婦問題について、互いを非難・批判しない範囲で自分の主張をすることは控える必要がない、ということなんだろう。

しかし、杉山発言が韓国メディアでセンセーショナルに報道された時、韓国政府が、どう対応するのか。ぬるい対応では韓国の国内世論を敵にすることが予想される。思い切って日本政府批判をすれば、合意は反故に近い形になることが予想される。

 

この杉山発言も、合意を不当とする側からの韓国政府への挑発と解釈することが可能であろう。韓国側から合意を破ってくれる、というのが理想的な展開だからである。

 

一方、韓国政府にしてもそれくらいのことは予想した上で「合意」していることが予想される。

杉山氏が朝日新聞を批判したように、韓国政府の代表も、「慰安婦の強制連行は捏造」と主張する研究者なりマスコミなりを批判し、強制連行された、と淡々と主張することは可能であろう。問題は、それで韓国世論をどこまで納得させられるか、である。

 

いずれかの側が合意破棄に踏み切るのか、あるいは合意範囲内ギリギリ(orグレーゾーン)での応酬をするのか。

いずれにせよ、あまり前向きな展開を想像できないのが苦しいところである。