改憲vs護憲を超えて

憲法改正の流れが現実的になった時に、建設的な議論ができますように

部活動〜提言するなら「日曜日の教育活動厳禁」を〜

部活問題 対策プロジェクトについては前の記事でも少し言及したが、この問題についてもう少し掘り下げてみたい。

上記のサイトでは、部活動の負の側面について、教師の労働問題、生徒に対する教育のあり方としての問題、家庭・家族の問題などの側面から述べている。いずれも、私が見聞きした範囲での事実と矛盾するものではなく、私個人としても賛同できる内容ばかりである。

そして、さしあたっての要求が、「学校の教師に部活動の顧問をする・顧問をしないの選択権を与える」という内容である、ということ、今後は、「生徒の強制入部の廃止の提言」や「部活動の環境整備」が目標とされることなどが記されている。

 

その主張、姿勢、私も賛同できる内容ばかりなのだが、一方で不安もある。

 

土日まで勤務して、1年間で休みが10日もない、という教師の例を私も知っている。彼は平日も、放課後の部活の後に授業準備や提出物チェック、その他の事務処理などを行い、徹夜で仕事をしていたこともあった。

一方で、土日は部活しない、と言って悠々過ごしている教師の例も知っている。放課後も毎日部活があるわけではなく、定時退勤とまではいかないまでも、そんなに深夜まで仕事をしているわけではない印象だった。

一体誰が、部活動というブラック労働を強制しているのか。

どうも、簡単なルール変更で解決する問題には見えないのだ。

 

たとえハードな運動部の顧問になっても、顧問が絶対的な権限において、平日は週3回、土曜は半日、日曜は休み、などと決めれば、それでその顧問はブラック労働からある程度解放されるはずである。

ところが、それができない例がある。

生徒の意欲、保護者の願い、職場の空気、教師自身の義務感、・・・そういったものが、その顧問をブラック労働に追い込んでいるのなら、いったいどうすればその顧問をブラック労働から解放できるのか。

どうしても県大会出場したい(ついでに言えば、それが調査書・推薦書に書けるから、進学・就職にも有利になる)、そのためにはライバル校よりも練習しないと、と願う生徒や保護者の気持ちを、誰が否定できるだろうか。そういう気持ちを受け止めてあげなければと思う学校側の姿勢を誰が否定できるだろうか。

部活動で大いに子ども達に競争させている、という現状や、部活動での活躍が将来の進路選択に有利になる、という現状がある限り、ブラック労働からは解放されにくいのではないか。

その点の構造的な問題から考えていかないと、とりわけ生徒想いな熱心な若手教師のブラック労働は終わらないだろう。

 

また、「学校の教師に部活動の顧問をする・顧問をしないの選択権を与える」というルールを設けたとしても、「しない」という選択権を若手教師が選べるのか、という問題がある。若手のくせに年休取るのか、などと言われる職場もあるという(これは教職員に限った話ではなく、どんな職種にもそういうところはあるようだが)。

部活動の輝かしい実績が、様々な学校の校舎に掲げられ、サイトに掲げられていることからわかるように、部活動は学校のPRになっている。中学生は、○○部のある高校に行きたい、○○部で実績を出せる高校に行きたい、という理由で高校選びをすることもかなり多いと聞く。

「学校の教師に部活動の顧問をする・顧問をしないの選択権を与える」ということは、結果的には各学校からの部活動の減少を促進することになる。そして、部活動を減らすのは、学校のPR力のダウンに繋がる。部活学校のような私立に、公立がますます勝てない、という話になったりするわけだ。

その点の構造的な問題から考えていかないと、「学校の教師に部活動の顧問をする・顧問をしないの選択権を与える」というルールを設けても、有名無実化するだけの可能性がある。

 

そして、「部活動のメリット」という問題も考えなくてはならない。

部活動は無料である。これが部活動の最大のメリットである(それが、ブラック労働の原因でもあろう)。

スポーツクラブや音楽教室に通う、というのでは、ある程度経済的に余裕のある家庭の子どもしか享受できない。部活動は、貧しい家庭の子どもでも(放課後子どもにバイトさせて生計を立てないと、というレベルの家庭でなければ)享受できる。そして、それを武器に進学や就職の競争を闘うことができる。

そこをどう考えるか。

 

私が今、それらの問題について結論を出せることはない。

このような記事を書くと、まるで、「部活問題 対策プロジェクト」を批判しているようだが、その動き自体には大賛成だ。部活動という労働がブラックである、という現状を、世の中に、教職員の組合でもできなかったような大規模な形で呈示した、という実績は非常に大きい。これからも是非応援したい。

 

しかし、上記の諸問題を含めて考えると、今の構造のままで少しでも状況を改善するなら、

「日曜日の部活厳禁」

くらいが妥当なのではないかと思っている。

いや、そうすると、日曜に補習を入れる学校もでてくるだろう。

より広く、

「日曜日の教育活動厳禁」

として、学校は日曜日には閉ざしていないといけない、日曜日に児童・生徒に対して必ず休養を与えなければならない、くらいにすることはできないものだろうか。

もちろん、私立の学校も同様である。

 

最後に、ある厳しい部活動経験者から聞いたエピソードを載せておきたい。

土日も含め年間ほぼ毎日厳しい練習をしているその部活に、卒業生がきた。

そこで、卒業生がありがたいお話をしてくれたという。

「高校時代、この厳しい部活を乗り切ったことが、今、社会に出てからとても役立っている。どんな厳しいことを上から言われようと、ハードな仕事だろうと、高校時代の経験を思い出して、乗り切れる」

ああ。厳しい部活が、ブラック企業の戦士をこれからも量産し続けるのだろうか。